世界が完全に思考停止する前に 森達也
- 作者: 森達也
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/11
- メディア: 単行本
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メディアリテラシーが叫ばれて久しいが森達也はそれについてこう述べている。「メディアが提供する情報は事実ではなく視点なのだと認識し、なるべく複数の報道に触れるようにすればそれで充分。」
北朝鮮選手団の来日ニュースで夕方のニュースと夜のニュースステーションで撮影素材が違うことについて。夕方のニュースでは北朝鮮選手団の不気味さを強調する映像を、夜のニュースではカメラに照れながらも笑い転げる女子選手たちが映されていた。
視聴者や読者というマーケットに迎合して、メディアが情報という商品を加工することを全否定する気はないが、でもこれは最早、添加物や合成着色料のレベルじゃない。ほとんどラベルの貼り替えだ。そろそろ気づいたほうがいい。食品会社なら大問題になることを、メディアは日々こなしている。
わからないことをメディアは認めたがらない
かつてラジオで競演した軍事アナリストの神浦元彰は、本番直前に「本当に何を喋ってもいいの?」と興奮気味で、何を喋るつもりなのだろうと思っていたら、番組が始まると同時にいきなり、「北朝鮮を過剰に怖れる必要はない。日本中が幻想に怯えている」と断言し、放送が終わってから、「すっきりした。テレビじゃこれを言わせてもらえないんです」と微笑んだ。
拉致問題と佐世保の同級生殺人事件の背景に、同様の構造が透けて見える。競争原理に煽られたメディアが設定する仮想的の存在が、国の進路をいつの間にか歪めている。
無自覚の恐ろしさ、“主語のない述語は暴走する”ということに気づかされまくる一冊。
★★★★