生きるコント 大宮エリー

生きるコント

生きるコント

毎日、真面目に生きているつもりなのに…なぜか、すべてがコントになってしまう人生。大笑いして、ちょっぴり泣ける、悲喜劇エッセイ。
『ビキニ』

 リオは、暑かった。そう、言ったのだ。海沿いを歩くと表示に40度とある。高熱!!変温動物だったら大変な気温だ。
 まず基本は、周囲の観察。だいたい“観光客です”風を吹かせるから襲われるのだ。見れば、アメリカ人やヨーロッパの観光客はポロシャツにジーンズ。一方、ブラジル人はビキニか海パンである。なるほど。早速宿に戻ってビキニに着替える。これで私も現地人。郷に入れば郷に従えです。
 地元の人が乗る市バスでカーニバル会場へ行くことに。
 勢いよく黄色いビキニで乗り込むと、なんと、びっくりな出来事が起こった。ブラジル人たちが、「え?」っていう目で私を見た。社内が、しーん、と、成っている。夜は、ブラジル人だって服を着てたんです。そ、そんな……。昼だけかよー、ビキニ!

治安の悪そうな場所で下ろされ…

 みんな下ろされた。そこは、スラム街だった。しっかし、こんなところで降ろすなよぉ……しかもわたし、ビキニだ……。
 呆然と立ち尽くすも、いつまどもそうしているわけにはいかない。だって危ないし、一人だけビキニだ。だから、走った。とりあえず、走った。なんとなく歩いてる場合じゃないと思ったのだ。走ったら、安全なのか?という疑問はよびったが、とにかく全力で薄暗いスラム街を黄色いビキニで走った。
 そして、すごいものをスローで見た。スラムのひとたちが、わたしを指差して怖い顔をして子どもを後ろに隠したのだ。え? なんで? わたしは驚いた。わたしもみんなのこと怖いけれど、もしかしてみんなもわたしのこと、怖いの? 怖がられてる?
 そりゃそうだ。夜中にスラム街を色白でぽっちゃりしている黄色いビキニの女が、髪の毛を振り乱し全力疾走しているわけだから。しかも、そこらへんは、水溜りなんだか、汚水なんだかがいたるところにあり、それを、バッチャン、バッチャンふみながら走っていたため、汚い水しぶきが、太ももまで飛び跳ねていた。
 そりゃ、恐怖映像ですよ。彼らは、ポルトガル語で何か叫びながら子どもを隠していた。見ちゃいけません!とか言ってたんでしょうか。ショック。カーニバル会場でも誰にも話しかけられず、極めて、安全だった。

★★★★