意味がなければスイングはない 村上春樹

意味がなければスイングはない

意味がなければスイングはない

スガシカオの柔らかなカオス

 一目見ればわかるように、決して流麗な歌詞ではない。むしろかなりごつごつとした、メロディーに簡単には乗せにくい歌詞だ。〜しかしそんな風に言葉をきれいに均してしまうと、スガシカオ的な世界の風景はかなり大きく変更されてしまうことになる。微妙なごつごつさや、細かいツノのたち具合、エラの張り具合が、なんといってもこの人の歌詞の持ち味のなのだ。詩的というようりは、どちらかというと散文的なイメージが強いかもしれない。このいささか無骨な感じの歌詞がいわば力ずくで、メロディーに乗せられると、そこに独特な着地感が生まれることになる。「力ずく」という表現を使ったが、それはメロディーと歌詞が喧嘩をしている、ということを意味しているわけではない。ある程度タフなネゴシエーションのような作業が、そこでなされている形跡がある、というくらいの意味だ。少なくともそれは、右の耳から左の耳にぬけていくような、ただ収まりのいい歌詞のための歌詞ではない。そういう時間をかけた、タフなネゴシエーションが、彼の歌詞に「腹持ちの良さ」みたいな質感をもたらしているように僕には感じられる。

★★★