風の歌を聴け 村上春樹

風の歌を聴け

風の歌を聴け

 1970年の夏、海辺の街に帰省した〈僕〉は、友人の〈鼠〉とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。2人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、〈僕〉の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。群像新人賞受賞。
 美しくて、どこを切り取ろうか迷ってしまう、そしてその全てを切り取っていたらこの本のほとんどが残らないだろう。

ここは日本なのに日本を感じさせない、それはどこかアメリカのように思える、乾いた風が流れている日常風景。風のように過ぎていった18日間、そして15年。読後もしばらく続く、郷愁や、希望や、喪失感や、爽快感が入り混じって、どんどん湧いてくる気もちは何なのだろう。
「君は宇宙空間で時がどんな風に流れているのを知っているのかい?」
「でも、そんなことは誰にもわかりゃしませんよ」
「誰もが知っていることを小説に書いて、いったい何の意味がある?」

 「完璧な文章などと言ったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
 だからこの作品には読むたびに新しい希望がある。
★★★★★