1973年のピンボール 村上春樹

1973年のピンボール

1973年のピンボール

僕たちの終章はピンボールで始まった。雨の匂い、古いスタン・ゲッツ、そしてピンボール……青春の彷徨は、序章もなく本章もなく、いま、終わりの時を迎える。新鋭の知的で爽やかな’80年代の文学。

1973年9月、この小説はそこから始まる。それが入り口だ。出口があればいいと思う。もしなければ、文章を書く意味なんて何もない。

 大学を卒業し翻訳事務所を設立した僕。仕事は順調に行っている。双子とも一緒に暮らしている。一見過不足なく、安穏とした日々を送っているように思える。(過不足なくといったが、やっぱり双子は過剰な幸せだ。両側から耳そうじしてもらうシチュエーションはやばい!)だがその幸せな日々も僕の前を通り過ぎていく。
「全てのものは通り過ぎていく。」
決してとどまることなく。そして“全て”は“僕自身”も例外ではない。僕は同じ場所にとどまり続けることはできない。それはとても悲しいことかもしれない。けれど、僕は通り過ぎていくなかで何かを選択していくはずだ。同じような生活をリプレイしていても必ず選択するときは来る。その来たる日に備え、何かを感じながら生活していかなければならない。鼠がそうであったように。そして、ピンポールと再会したときベストスコアを汚さないためにも。
 別れ、人生はそこから始まる。それが入り口だ。出口があればいいと思う。もしなければ、人生を生きる意味なんて何もない。
★★★★