寂しい国の殺人 村上龍
- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: シングルカット
- 発売日: 1998/01
- メディア: 単行本
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97年、神戸須磨区での殺人事件の容疑者として14歳の少年が逮捕された。
日本は不思議な国である。電気製品や車などの海外の市場が認めるブランド品を持っていて、自国の通貨も非常に強い、にもかかわらず、近代化を終えたという自覚がない。〜〜国民が一丸となって一つの目標にむかう時代はとっくの昔におわっている。それが近代化の終焉である。大人たちは曖昧なムードとしてそのことを理解している。
わかりやすい例として芥川・直木賞とレコード大賞がある。ほとんどの国民が無意識のうちにその役目はおわっているのだと気づいている。
だがどんなメディアもそういうことを言わない。
もう国家的な目標はない、だから個人としての目標を設定しないといけない、その目標というのは君の将来を支える仕事のことだ、そういう風にわかりやすく親切にアナウンスしてあげないとわからない人々がいる。
子どもたちだ。
あれから8年の時が流れ、いわゆる酒鬼薔薇世代の僕たちも大人と言われる年齢を過ごしている。
わたしは、子どもだろうが大人だろうが、人間の精神が常態として安定しているとは思わない。最小の人間関係、つまり夫婦や親子や家族という人間関係も、常態として安定しているものではないと思う。貧しさによる悲しみが消えて、寂しさに変わったことは基本的には進歩である。わたしたちは恒常的に、つまり常態として寂しさを抱えるようになった。システムがその寂しさを中和してくれるのではないという期待をわたしはまったく持ってこなかったし、今も持っていない。システムが自分を支えてくれるという幻想とは幼稚園の頃から無縁だったので、わたしは個人的に充実感を得られるような仕事を持ち、個人的な目標を設定できなければこの世の中は生きにくい、と常に思っていて、自分の子どもにはそのことを身をもって示し続けた。
日本全体のことなんか考える時間的余裕がないような、個人的で刺激的な仕事をいつもしていたいと思っている。数日徹夜しても飽きることがないことを自分が今持っているかどうか、いつもそのことを考えていたい。
全部俺が言ったことにしたい……(特に最後!)
残されたモラトリアムの中で足掻いてやるよ!
★★★★★