村上龍映画小説集 村上龍

村上龍映画小説集

村上龍映画小説集

村上龍の『69』以後、’70年代のほろ苦い青春を描く。基地の街から出てきた東京は、ひどく退屈で、やるべきことは何も見つからなかった。麻薬とセックスと音楽に明け暮れた日々の中で、映画は強烈な魅力にあふれていた―。
 麻薬とセックスを繰り返す日々を送った村上龍らしい青春。青春という言葉には許しがたい響きがある、と村上龍は言った。44歳が青春時代を振り返って書いたこの許しがたい日々は、退廃的で行き場のない、しかし愛にあふれたものだった。過去は往々にして美化される。しかし私がこの小説から感じたものは、あの頃はよかったといった類の、怠惰な青春を懐かしみ肯定するものでは断じてない。まだ私には備わっていない、成熟した大人のまなざし、過去の自分と対峙して恥を認めることのできる広量な態度といったものだ。

お互いに傷つけあうことに何か意味があるわけではないし、そんなことに価値はない。だが関係性が生まれればどういう形にせよ傷は発生する。そしてその傷から自由になろうと決めて努力する場合に限り、傷は何らかの意味を持つのだ。

「私はあのラストシーンが好きなの、百本近く映画を観たけど、一番気に入っているラストシーンじゃないかな、いい?本当は誰だって行くところなんかどこにもないわけじゃないの、そんなことを考えずにすむような何かをあんたは探さなきゃいけないわけでしょ?いくところがあるっていったって、たいていの人は、それは用事があるだけなのよ、そこへ行けと誰かに命令されてるのよ、兵士から大統領までそれは同じだと思うわ、あんたのことを、逢わなくなってから徹底的に考えたの、あんたに才能があるかどうかなんて知ったこっちゃないけど、あんたは用事のない生き方をする人だな、と思ったのよ、それをやってれば、どこにも行かなくてすむっていうものを見つけなさい、それができなかったら、あんたは結局行きたくもないところへいかなくてはいけない羽目になるわけよ」

『ワイルド・エンジェル』より

★★★★