午後の磔刑 王国記V 花村萬月

午後の磔刑―王国記〈5〉 (王国記 (5))

午後の磔刑―王国記〈5〉 (王国記 (5))

もう許していただきたいのです。負けを認め、教子が祈りを捧げた朧の息子・太郎。不思議な力を現す太郎は、ほんとうに「神」なのか?「夜」を彷徨う人々が目指す先は―王国。「王国記」シリーズ最新作、いよいよ佳境に。『め-くるめ・く【目眩めく】』『午後の磔刑』の2編を収録。

百合香は身をすくめるように前屈みで腕を組み、吐き棄てるように言った。

「目眩がした。教子にとっては性は煩悩で快楽で愛のかたちかもしれないけれど」
 私はさらに弱々しく笑い返した。煩悩で快楽ではあるけれど、決して愛のかたちなんかではない。愛に形状があってたまるかというのが私の本音であり、言いぶんだ。
 人は何事であっても、すべてを見えるようにしないと気がすまない病に冒されている。見えないものを見えないものとして安置できず、最後の手段として、言葉を用いて、その姿を読み取れるようにしようと足掻く。見えなければ安心できないというのは、最悪の病だ。

だとしたら花村萬月は最悪の病を患っている。この心地よい自嘲気味の文章を久しぶりに読めて大満足。
★★★★