午後の磔刑 王国記V 花村萬月
- 作者: 花村萬月
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/01
- メディア: 単行本
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百合香は身をすくめるように前屈みで腕を組み、吐き棄てるように言った。
「目眩がした。教子にとっては性は煩悩で快楽で愛のかたちかもしれないけれど」
私はさらに弱々しく笑い返した。煩悩で快楽ではあるけれど、決して愛のかたちなんかではない。愛に形状があってたまるかというのが私の本音であり、言いぶんだ。
人は何事であっても、すべてを見えるようにしないと気がすまない病に冒されている。見えないものを見えないものとして安置できず、最後の手段として、言葉を用いて、その姿を読み取れるようにしようと足掻く。見えなければ安心できないというのは、最悪の病だ。
だとしたら花村萬月は最悪の病を患っている。この心地よい自嘲気味の文章を久しぶりに読めて大満足。
★★★★