東京奇譚集 村上春樹
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/09/15
- メディア: 単行本
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『偶然の旅人』
冒頭で僕=村上が登場して前口上を済ませる。本人に登場されてしまったら奇譚にも真実味が増すってものだ。このデレク・ハートフィールド的手法により、僕は奇譚の数々にまんまと巻きこまれていった。
「かたちのあるものと、かたちのないものと、どちらかを選ばなくちゃならないとしたら、形のないものを選べ。それが僕のルールです。壁に突きあたったときにはいつもそのルールに従ってきたし、長い目で見ればそれがよい結果を生んだと思う。そのときはきつかったとしてもね。」
★★★★★
『ハナレイ・ベイ』
「大義がどうであれ、戦争における死は、それぞれの側にある怒りや憎しみによってもたらされたものです。でも自然はそうではない。自然には側のようなものはありません。あなたにとっては本当につらい体験だと思いますが、できることならそう考えてみてください。息子さんは大義や怒りや憎しみなんかとは無縁に、自然の循環の中に戻っていったのだと」
村上の問い続けてきた、死は生の対極にあるのではない。むしろ生に内包されている。といった“境界線”をめぐる死生観がここでも垣間見える。
「女の子とうまくやる方法は三つしかない。ひとつ、相手の話を黙って聞いてやること。ふたつ、着ている洋服をほめること。みっつ、できるだけおいしものをたべさせること。」
「それって、すげえ現実的でわかりやすいですね。手帳に書きとめといていいですか?」
「いいけどさ、それくらい頭で覚えられないの?」
「いや、ニワトリとおんなじで、三歩あるくと記憶が全部ころっと消えちまうんです。だから何でも書きとめます。アインシュタインもそうしてたそうですよ」
「アインシュタインねえ」
「忘れっぽいことは問題じゃないんです。忘れることが問題なんです」
★★★
『どこであれそれが見つかりそうな場所で』
ダンキンドーナッツからミスタードーナッツにかわったね。
ちょっと消化不良。
★★
『日々移動する腎臓のかたちをした石』
興奮させるタイトル。
「男が一生に出会う中で、本当に意味を持つ女は三人しかいない。それより多くもないし、少なくもない。」
という父親の言葉が人生につきまとう青年の話。
正しいことはいつも決まって後になってわかるっていうけど、やっぱり悩んで悩んで決めたことは、その時点で正しいことだと思う。本当に正しくないことは悩まないことなんじゃないかな。
「すごく大事なことだよ、それは。職業というのは本来は愛の行為であるべきなんだ。便宜的な結婚みたいなものじゃなくて。」
いろんな示唆に富む話でした。
★★★★
『品川猿』
羊男の次は品川猿?名前というのはとても重要なもので、名前のないものを人は認識できない。名前をつけた時点で初めて人はそれを認識できる、というようなことをどこかの哲学者が言っていた気がする。ロゴスって存在するよ、どこであれそれが必要な場所に。
★★★