啓蒙的なアナウンスメント 第2集 世界の現状 村上龍

アフガン、日米関係、NGOから、メディア、バイオテクノロジー、サッカーまで。村上龍が感じる世界と日本の最前線を、坂本竜一、岡田武史など第一線で活躍する人々と縦横に語り尽くす。
日本のメディアは死んでるよって話。

 メディアが持っている文脈が、高度成長期のころと変わらないんです。だから、問題の立て方を間違えて、間違った答えを誘導する。“援助交際は是か非か”というキャッチをつけないと、雑誌の見出しにならないんです。“あなたの子供は大丈夫か?”というのは、大丈夫な子供と危険な子供という前提に立っているわけです。
 たいてい、少年犯罪を起こした子供でも、小学生時代はまじめでおとなしい子だったといわれる。子供は誰でも不安定で、大丈夫なことそうじゃない子は分けられないんですよね。それなのに、問題の立て方は大丈夫かどうかとなってしまう。そういう前提だと答えに何の意味もないんですね。

 ひとくくりにはできないことをひとくくりにしている、というのは、たとえば総裁選のときにニュースなどで、亀井静香が「国民のために補正予算を」と言って、小泉さんも「国民のために構造改革を」といっていました。聞いているほうは何の違和感もありません。ただ亀井静香の言う「国民」と小泉純一郎の言う「国民」は違うものですよね。本当はその違いが一番の問題かもしれないし、その差異が本来の政策論争だと思うんです。ところが、それを覆い隠すために「国民」という言葉が使われることがあるんです。政治家はそこを突っ込まれるとすごく困るはずなんです。

日本の雇用システム

 (高梨)一般に専門職は、企業間移動をする横断的な流動的労働市場を形成すると言われますが、実態はそうではなく、企業へ長期的に定着するのが通常です。これは日本だけではなく欧米もほぼ同様です。
 たとえば、技術開発を担う研究職・技術職などは、長期的雇用システムで処遇されるのが世間相場です。もともと技術開発、とりわけ基礎技術開発には失敗がつきもので、失敗の積み重ねを経て成功するものですから、成果主義など短期的実績で処遇されては技術開発は進みません。それに技術開発には特許など知的所有権がからみ、これは企業秘密に関わる技術ですから、この秘密の漏洩を防ぐためにも、長期雇用システムによる処遇管理が必要不可欠です。

タリバン以前、タリバン以後

 (山本)空爆がテロ撲滅のために有効かどうかと言う観点では、疑問を出している人がかなりいると思います。テロの根本的な原因を探求してそれを排除しなければ、テロはなくならないという議論ですね。それとは別に、龍さんが仰ったような、アフタニスタンの復興にとっての、この空爆の有効性を考えると言う立場はまだあまり議論されていないように思います。
 今起こっていることは、アフガン人にとってはテロ撲滅とはあまり関係がないと思う。非常に図式的に言うと、普通のアフガン人には、一国の中で二つの勢力の対立があり、それが武力衝突という形で表れている、その一方に味方する形で外国の干渉があり、他方が消滅するというように見えているんじゃないでしょうか。その結果、カンボジアのようなことが起こってしまうかもしれない、だから有効性が疑問だと言う論理だと思いますが、これは検討するべきだと思う。
 対立している当事者の一方が消滅すると言うのは、対立そのものの消滅と同義ではないでしょうから、国家あげての復興にとって、見えない対立は生涯として機能し続けるかもしれない。それに、そもそも馴れ合いではなく対立が持つ社会の健全さというような根本的な問題を考えると、対立が昇華されたのではなく、棚上げになっただけなら、復興にとっては根の深い障害が残るとも考えられる。カンボジアの例がそれに当たるのかも知れません。

 そうか、アフガンは「対立が持つ社会の健全さ」を奪われたのか。武力衝突は肯定できないが、それを剥奪することで、お仕着せの復興をアフガン人は受け入れさせられている。自分たちでものを決められるようになることが重要だ。他国の干渉が国政を動かしていくような国家は未熟と言わざるを得ない。
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