箱男 安部公房

箱男

箱男

 Aにもし何か落度があったとすれば、それはただ、他人よりちょっぴり箱男を意識しすぎたと言うくらいのことだろう。Aを笑うことは出来ない。一度でも、匿名の市民だけのための、匿名の都市――扉という扉が、誰のためにも隔てなく開かれていて、他人どうしだろうと、とくに身構える必要はなく、逆立ちして歩こうと、道端で眠り込もうと、咎められず、人々を呼び止めるのに、特別な許可はいらず、歌自慢なら、いくら勝手に歌いかけようと自由だし、それが済めば、いつでも好きな時に、無名の人ごみにまぎれ込むことが出来る、そんな街――のことを、一度でもいいから思い描き、夢見たことのある者だったら、他人事ではない、つねにAと同じ危険にさらされているはずなのだ。

やばいやばいやばい!すげーー体験をしてしまった。エッシャーの世界を文章で体験した気分だ。小説とはこういうものなのか!芸術とは人に革命を起こさせるものなのか!!
俺の小説体験は間違いなく今日を境に「安部工房以前/以後」に分けられることとなった。
キリスト誕生を境にBC/ADと世界が区別されたように。
この作品は間違いなく
★★★★★
以上だ。