ニッポニアニッポン 阿部和重

ニッポニアニッポン (新潮文庫)

ニッポニアニッポン (新潮文庫)

17歳の鴇谷春生は、自らの名に「鴇」の文字があることからトキへのシンパシーを感じている。俺の人生に大逆転劇を起こす!―ネットで武装し、暗い部屋を飛び出して、国の特別天然記念物トキをめぐる革命計画のシナリオを手に、春生は佐渡トキ保護センターを目指した。日本という「国家」の抱える矛盾をあぶりだし、研ぎ澄まされた知的企みと白熱する物語のスリルに充ちた画期的長篇。

春生が最も着目した箇所は、石居教授の以下の発言である。
 中国のトキが日本のトキの遺伝子を持つ卵を産むことが可能になるかもしれないよ
 春生はこんな風に自説を書いた―「トキ保存・再生プロジェクト」の関係者は是が非でも、日本産トキを復活させねが気が済まぬらしい。彼らはあくまでも、日本産の血統に拘りたいわけだ…「国籍」の場合と同じように。つまり彼らは、トキという希少動物の保護増殖こそが課題であるかに触れ回りながら、実情は何のことはない、「にっぽん」という名と血と国の「保護」であり、「増殖」であり、「保存」であり、「再生」を最大の目的としているわけだ。
 むろんそれは、国家と言う制度にとってはまったく妥当な理念であり、当然過ぎる判断と言える。国にとって大事なのは、国という枠組み以外にはないのだから、その意味では誤りは微塵もない。それゆえに、一方では容赦なく環境破壊を推し進めつつ、他方では「絶滅危惧種の保護増殖」を謳ってトキの繁殖に努めるという矛盾に臆する必要すらないのだろう。国にとっては、単にトキという生物が増えたところで、何の意味もないというわけだ。
 しかしその場合、ユウユウやシンシンやアイアイらは、どうなるのか。やはりこれら新世代のトキたちは、クローン技術による日本産トキの復活のためだけに必要とされ、生かされているに過ぎぬのか。「中国のトキが日本のトキの遺伝子を持つ卵を産むことが可能になるかもしれないよ」という石居教授の言葉が、そのことを裏付けているように思えてならない。「中国のトキ」とは、確実にユウユウやシンシンやアイアイらも含まれているわけであり、彼らはいわば、「日本のときの遺伝子を持つ卵を産む」ための、単なる媒体だと考えられているのではないか。仮にそうやって、ミドリら日本産トキの血筋を引く雛が生まれたら、ユウユウやシンシンやアイアイらを彼らはどのように扱うのか。そのとき、日本で誕生した中国産二世のトキたちが、遺伝子差別だとかの対象となってないがしろにされぬと言う保証は、果たしてあるのか…

彼自身の再生はかなわなかったわけだが。
ラストのボヘミアン・ラプソディー/Queenがすごく嵌っていた。
Mama, life had just begun
But now I've gone and thrown it all away
★★★★