サド侯爵夫人 三島由紀夫
- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/06
- メディア: 文庫
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牢屋の中で考えに考え、書きに書いて、アルフォンスは私を、一つの物語の中へ閉じ込めてしまった。牢の外側にいる私たちのほうが、のこらず牢に入れられてしまった。
満ち足りると思えばたちまちに消える肉の行いの空しさよりも、あの人は朽ちない悪徳の大伽藍を、築き上げようといたしました。転々とした悪行よりも悪の掟を、行いよりも法則を、快楽の一夜よりも未来永劫につづく長い夜を、鞭の奴隷よりも鞭の王国を、この世に打ち建てようといたしました。ものを傷つけることにだけ心を奪われるあの人が、ものを創ってしまったのでございます。何か分からぬものがあの人の中に生まれ、悪の中でももっとも澄みやかな、悪の水晶を創り出してしまいました。そして、お母様、私たちが住んでいるこの世界は、サド侯爵が作った世界なのでございます。
格子の外で、お母様、小母様、あの人は何と光ってみえますこと!この世で最も自由なあの人。時の果て、国々の果てにまで手を伸ばし、あらゆる悪をかき集めてその上によじのぼり、もう少しで永遠に指を届かせようとしているあの人。アルフォンスは天国への裏階段をつけたのです。
ああ、なんとシンメトリックな美しさよ!サド侯爵を登場させず、サドを描く。こういう手法は大好き。銀行強盗のシーンを描かずに銀行強盗劇を描いたタランティーノのレザボアドッグス然り。
これを読んでいてひとつ重要なことに気づいた。俺はサン・フォンやサド侯爵ではなく、サド侯爵夫人に感情移入をしてこの戯曲を読んでしまっていた!図らずも己のマゾ性が証明されてしまったのである。
この戯曲はSMの踏絵ともなっているのでご用心。
★★★