本の読み方 スロー・リーディングの実践 平野敬一郎

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)

本を速く読みたい!―それは忙しい現代人の切実な願いである。だが、速読は本当に効果があるのか?10冊の本を闇雲に読むよりも、1冊を丹念に読んだほうが、人生にとってはるかに有益である―著者は、情報が氾濫する時代だからこそ、スロー・リーディングを提唱する。夏目漱石『こころ』や三島由紀夫金閣寺』から自作の『葬送』まで、古今の名作を題材に、本の活きた知識を体得する実践的な手法の数々を紹介。
 スローリーディングのテクニックを覚書。
・一方で自由な「誤読」を楽しみつつ、他方で「作者の意図」を同時に考えなければならない。
・小説を読む理由は、単に教養のため、あるいは娯楽のためだけではない。人間が生きている間に経験できることは限られているし、極限的な状況を経験することはまれかもしれない。小説は、そうした私たちの人生に不意に進入してくる一種の異物である。それをタダ排除するに任せるか、磨き上げて、本物同様のひとつの経験とするかは、読者の態度しだいである。
・形容詞、形容動詞、福祉などは、それ自体というよりも、なぜ他の修飾語ではダメだったのかを、とりわけ、対義語を考えてみることで、その必然性が見えてくることがある。
・違和感を思えた箇所こそは目の付け所だ。このシーンは、作者が、いささか無理をしてでもねじ込みたかった重要な意味を持っていると考えるべきだろう。
・小説で間をとる最も単純な方法は、「……」や「――」といった記号を用いることだ。また、風景描写や心理描写を挿入するというのもひとつの手だろう。飲み物を飲むというのも、普段の会話での間の撮り方と同じで、小説でも有効だ。その他、第三者が場面に割り込んでくる、などということも考えられるだろう。一般的に、こうした間の後には、重要な発言が控えていることが多い。
・ある本を読んでいて、別の本のことが思い浮かんだら、それらを比較し、類似点、相違点を考える
・印象的な比喩というのは重層的である。たとえば「僕の毎日は、印刷したように同じだ。」にこう続ける。「それでも、生活の実感は同じじゃない。たくさん刷り過ぎてインクが薄くなってきたように、近頃僕はその同じ繰り返しを、以前よりも希薄に感じ始めている。」「そうした不安に駆られて、自分の生活にもう一度目を凝らしてみると、思いがけない発見をすることもある。とはいえ、それだって、せいぜい誤植を見つけたくらいの興奮だが。」というように。
 
 以前、速読を試みてうまくゆかなかったがスローリーディングのほうが私にはあっているかもしれない。作家のしこんだ細かい仕掛けにもっと気を配らなければ。
★★★