笑犬楼の知恵 筒井康隆

笑犬楼の知恵 筒井康隆トークエッセー

笑犬楼の知恵 筒井康隆トークエッセー

20世紀末から21世紀にあたる2年間、『朝日新聞』に好評連載された「筒井康隆トークエッセー」を単行本化。作家だけでなく、俳優など様々な経験をしてきた著者が説く、極めて私的な「知恵袋」。

 二列縦隊を正面から撮るときは、本当に二列縦隊になったのでは全員がカメラに収まらないので、ハの字形にならなければならない。より本当らしく見せるためのカメラの嘘ということがりかいできないのである。
 現実にも、自分の居場所や位置が理解できない人はたくさんいる。人はみな自分の人生の主役ではあるのだが、すべての局面において主役ということはありえない。こういう場合、自分の居場所を決めるのは、前期の例で言えば、カメラである。自分のほうからカメラを見て、カメラのレンズが見えれば自分は被写体として移っていることがわかる。同様に実生活でも、虚構に擬したその場において、自分はどういうテーマの下にあり、誰から、何から見られているか、見ているそれやテーマが那辺にあるかがわかれば、おのずから自分の居場所もわかってくるのである。次には周囲を見て、誰がどこにいるかを見定めていけば、おのずと自分のいるべき位置もわかるのである。

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