めくらやなぎと眠る女 村上春樹

めくらやなぎと眠る女

めくらやなぎと眠る女

「これはうまいね」と男は感心して言った。
「だから言ったじゃない。私にはおいしいレストランをみつける特殊能力が備わっているんだって。これで信じる?」
「たしかに、そうみたいだ」と青年は認めた。
「そういう能力って、意外に役に立つのよ」と彼女は言った。ものを食べるって、みんなが思っているよりも大事なことなの。人生にはね、ここでひとつおいしいものを食べなくちゃならないっていうポイントがちゃんとあるの。そしてそういうときに、おいしいレストランに入るか、まずいレストランに入るかによって、人生ってがらりと変わっちゃったりするわけ。つまりさ、塀のこっち側に落ちるか、向こう側に落ちるみたいに」

★★★★