青い翅の夜 王国記Ⅳ 花村萬月

nao-soft2004-09-29

花村萬月『王国記』シリーズ第5作
僕はただの犬にすぎなかったんだ…。自分がつくろうとしていた王国の「王」が自分ではないことに突如気づいた朧。真の王たるものは、誰か?
「むしろ揺り籠の幼児を」「青い翅の夜」の2編を収録。
「むしろ揺り籠の幼児を」
 長崎五島から東京へ帰る飛行機の中で朧はついにヴィジョンを獲得する。月の光を浴びて十字架のかたちで浮かんでいる無。そして直裁に理解した。僕は王国をつくろうとしていた。だが、王ではなかった。僕はあくまでも王国の犬、なのだ。王は誰か。月の光のなかに浮かびあがった<無>だ。
 さらにヴィジョンの欠片を見る朧。

──雲の影。
それは雲の影だった。
説き明かしたとたんに霧散してしまうのがヴィジョンの宿命であるが、あえて言語化しよう。ことは単純だ。つまり女の愛情がもたらすはずの救いは、地に射す陽光を遮ってしまう分厚い雲のようなものだ。雲の影とは、〜愛情と称されるもの全てが凝縮されて陽射しを遮る瞬間に立ちあらわれる微妙に淡い、しかしありとあらゆる予兆を孕んだ複雑な陰りのことだ。

 朧がどんどん小さくなっていくように感じた。残酷で、震えるようなカリスマを感じさせる朧を見たいのに。
「青い翅の夜」
ジャンの視点で語られる物語。ジャンの暗い過去が告白される。最も過酷だったのは聴罪司祭モスカ神父にも犯されていたということ。ジャンは教子と、4歳になった太郎と交わる。
 ジャンも次作で「青い翅」にまつわるヴィジョンを獲得しそうだ。あとヴィジョンを獲得できそうなのは百合香くらいか。そろそろ新しい展開を見せてもらわないと。
★★★