ぢん・ぢん・ぢん 花村萬月

ぢん・ぢん・ぢん

ぢん・ぢん・ぢん

新宿歌舞伎町でヒモ修行をはじめたイクオは、その夜のうちに童貞を捨てた…。新宿を舞台に性の遍歴、魂の彷徨を経て成長していく青年の姿を描きながら、既成のモラルを問い直す問題作。
……やっと読みおわったのだ、2段組664Pの超大作を!(文庫本でいうと1100P!!)この本を読了するまでの約10日間、僕は主人公イクオと共に「羞恥心」「自尊心」「優越感」「真善美」「セックス」といったことについて考えた。いや、そんな穏やかなものではなかった。花村萬月の放つ文章・その圧倒的物量の前において僕はそれらを嫌でも考えざるを得なかったのだ。

 イクオは素直に頷いた。だが、胸の裡で呟いていた。性は本能的欲望が源にあるのだろうが、それは断じて生殖のためでない。人と人との間を埋めるものとして存在するのだ。だからこそ、考えさせられる。よろこびだけでなく、苦悩をもたらす。単純に射精して呻いて終わるというものではない。
 人が性のことばかり考えているのは、他者との間をいかに詰めてひとつになればいいのだろうかということに対する精神的な渇望からもたらされるのだ。そして、その根底には絶望的な孤独という問題がある。独りで生まれて、独りで死んでいくという癒しようのない本質的な孤独だ。
 古人が人という漢字に間という漢字をつなげて人間とした根底には、きっと人と人との間を埋めることについて真摯な思考と切実な孤独感があったからに違いない。

ほんとうに、考えさせられる、考えさせられる、考えさせられる。
 物語のプロットでハッとさせられたのは、終盤、イクオが小説を書き始めたシーン。その文章は

 私は、思う。
 なぜ、人前でこれ見よがしにキスをするのか。なぜ、平然と不細工な顔と躯を他人の前にさらして、ねとねと粘っこい接吻ができるのか。

〜そして、伝説へ〜 ってことか!!
 それと衝撃のラスト。イクオの想い、則江の想い、最後でさらにぢん・ぢん・ぢんとさせられた。
★★★★★