新・ゴーマニズム宣言14 小林よしのり

新・ゴーマニズム宣言 14 勝者の余裕

新・ゴーマニズム宣言 14 勝者の余裕

邦人人質、橋田信介氏殺害、捕虜虐待……イラク情勢と自分はどう繋がっているのか?北朝鮮外交、日米同盟、中台問題……小泉「亡国」外交は日本人のどんな心根の反映か?長崎女児同級生殺人事件は日本社会の何を象徴しているのか?「イラク」「アメリカ」問題にこだわらず全方位的な評論がなされておりゴー宣言の醍醐味を濃縮した内容。
大義も正義もなくていい保守?>
 開戦前の大義であった大量破壊兵器は見つからず、「戦争に大義も正義もいらない」と言い出した親米保守。この態度に対し、勝者にだけ正義があるのではない!‥‥というのが東京裁判史観の克服ではなかったのか?と氏は唱える。親米ポチ保守相対主義。節操が無さ過ぎると思う。歴史の評価は後世にならないとできないというのは一理あると思うが、それはひとつの逃げであるようにも思える。日本民族の根底にある倫理基準(=武士道)に照らして評価すれば自ずと進むべき道も見えるはずだ。一貫した理念を持ち道を進む小林氏こそ平成のラストサムライだ。
<邦人人質に自己責任と言える資格があるか?>
 思い出してみると、邦人人質とその家族に感じたものは憤りに近いものだった。この事件で考えなければならなかったのは、個人主義で育ったものたちは自分が家族や、社会や、国との関係性の中で生きているということだと氏は述べている。小泉首相を始めとする親米派と同じく、私も自己責任論を肯定する。しかし2度目の邦人人質事件での家族の対応は潔すぎたものでそれもまた悲しいなと感じたのも事実だ。最も情で判断すべき問題ではないとはわかっているのだが。
靖国参拝違憲という「傍論」の暴論>
 首相の靖国参拝は賛成だが、一国の首相に「私的参拝」という主張が通るかというのはなはだ疑問だ。それは首相の行動というものには全て責任が伴うものだと私は考えているからだ。面白い事に小泉首相だけは特別で、緊急事態でも映画・演劇鑑賞、オリンピック観戦と「私的」休暇がなんとなく許されている。だってコイズミだもん。
 靖国最大の問題はサヨク市民よりも中国が黙っていないということだ。「私的」であろうが「公的」であろうが中国には関係ない。朝まで生テレビに出演していた中国人のジャーナリストはしきりに「歴史の問題が解決しなければ日本と中国の間に前進はありえない」というようなことを繰り返していた。中国の反日教育のひどさが垣間見えた1コマだった。ODA問題にしろ領土問題にしろ、礼を尽くさない中国の挑発になど乗る必要はなく、首相は公人として靖国参拝を続けるべきだ。
橋田信介の謙虚な勇気>
 橋田信介氏の死は本当に衝撃だった。報道ステーション、朝生とその姿をテレビで見ていたばかりだったし、彼の著書「イラクの中心で、バカと叫ぶ」を丁度読んでいた時だったのでなおさらだった。彼にあって先の人質たちになかったのは‘覚悟’だろう。それは彼の奥さんを見てよくわかった。現地に行く本人だけでなく、奥さんにも確固たる‘覚悟’があった。彼は次の旅で自分が日本に帰れないことを覚悟していたし、彼女にもそれを覚悟させていた。自己責任を全うしていた。
 彼は死を賭してニュートラルな現実を伝えようとした。人間の多くは果たして彼のような視点を持ちつつ戦争を語ることができるだろうか。いやできないから戦争は繰り返されるのだろう。
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