台湾論 & METAL GEAR SOLID 3

新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 台湾論

新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 台湾論

李登輝前総統、陳水扁総統ととことん話して見えてきたのは日本の危機だった。「日本人」とは、「国家」とは何かを解く鍵である、日本の遺産を守り継ぐ隣国・台湾を描く。
METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER

METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER

冷戦の時代、世界は2つに別れていた――。1964年、キューバ危機直後のソ連領内。諜報員(スパイ)が最も活躍した時代を背景に、緑生い茂るジャングルで世界を賭けたサバイバルが始まる。
 私欲が全くない、国のためだけを考える1人のリーダーが本当に存在したならば…そしてそのリーダーに本物の聡明さと勇気があったならば…何を成し得るか?何を残せるか?そのテキストとして21世紀に語り伝えていかなければならない物語がある。その主人公が李登輝であり、ザ・ボスである。

肯定されるべきは有意義な「生」であって、それは常に「死」と表裏の関係にある。人間は有意義に生きようと思えば、常に死を思わねばならない。このとき「死ぬ」とは肉体的な死を言うのではなくて、自我の否定に他ならない。

「なぜ亡命を?」
「亡命ではない。自分に忠を尽くした。おまえはどうだ?
 国に忠を尽くすか。それとも私に忠を尽くすか…」
「いい?兵士はいつも同じ側とは限らない。戦闘相手は政治によって決まる。軍人は政治の道具にすぎない」
「俺は成果をあげるために持てる力を使う。
政治的なものは意識しない」
「東洋では“忠を尽くす”という言葉がある」
「主君への…愛国心?」
「国への献身」
「俺も大統領や軍のトップに従う。その為に死ねる覚悟も」
「任務は人が下しているものじゃない」
「では誰が?」
「時代よ」
「時の流れは人の価値観を変える。国の指導者も変わる」
「だから絶対敵なんてものは無い。私達は時代の中で、たえず変化する相対敵と戦っている」
「昨日の正義は今日の悪かもしれない」
「忠を尽くしている限り、私達に信じていいものは無い」
「例えそれが愛した相手でも…」
「ただ一つ、絶対に信じられるもの………任務だけよ」

スネーク&ザ・ボス
「人も国も環境で変わる。時代で変わる。」
EVA
「私は亡命を考えた事など一度もない。この国が好きだ!
 この土地を愛しておる!」
グラーニン

 私という存在は何者であるか?メタルギアの人物たちは時代に流されながらも祖国に忠を尽くした。ではその「忠」の心はどこから生まれてくるものなのか。それは国籍だろうか?いや、そんな単純なものではないだろう。
 あなたは何人ですか?と問われたらなんと答えるだろうか。日本人の答えは決まっているだろうが、台湾人からはいくつかの答えが返ってくる。「台湾人です」「台湾人でもあり中国人でもある」「中国人です」、さらに1895〜1945年の日本統治時代を経験している60代以上の台湾人には「元日本人です」と答える者もいる。民族のルーツの問題、政治体制の問題、言語の問題、これらにより台湾人はナショナルアイデンティティー<=忠を尽くすべき対象>が統一されていない。小林氏は述懐する。台湾人にも中国人と同じ漢民族の血が流れているという李登輝氏の発言への懸念、そして日本人も朝鮮半島から渡ってきた人々の血が混じっているはず、つまり血統による民族主義アイデンティティーを規定するのは無意味だと。今の日本人を作っているものは「血」ではなくて「国土」や「言語」「歴史」だと。
 ナショナルアイデンティティーは「精神」により生まれると思う。精神は環境により育まれる。環境とは自分を支えている歴史であり、自分の思考を紡ぐ言葉であり、自分の過ごした土地であり、自分を育てた人々である。絶えず変わる環境のなかで体験したこと、感じたこと、考えたことが精神を育んでいく。
 そんなことを考えているとスパイの「精神」が卓越したものだと際立って思える。土地も言葉も超えて、ただ任務だけに忠を尽くす。それが祖国に忠を尽くすことになる。「公」のために「私」を捨てることで「国」を生かす。歴史の表と裏で決断をしてきたリーダーとその忠誠者たち。なんと哀しく美しい物語。メタルギアと台湾の歴史を知るとそのような知るべき歴史がまだまだあることを感じる。冷戦時代のスパイ、隣国の台湾のリーダー。日常から時間も距離も遠いところにあるこの2つが、私のアイデンティティーを揺さぶった。

台湾論 ★★★★
METAL GEAR SOLID 3 ★★★★★