ラブ&ポップ 村上龍

ラブ&ポップ―トパーズ〈2〉

ラブ&ポップ―トパーズ〈2〉

どうしても欲しいものを、今、手に入れるために、その日〈裕美〉は援助交際を決意した。伝言ダイヤル、テレクラ、ナンパ…。彷徨の果て、裸の女子高生は救いを得られるのか?

きょう買わないと必ずあの指輪のことを忘れる、と裕美は思った。野田知佐がダンスを習い始めた時、裕美は一緒にやりたかった。いつかそのうちに始めようと思っているうちに、いつの間にか気持ちが消えた。やりたいことや欲しいものは、そう思ったそのときに始めたり手に入れようと努力しないと必ずいつの間にか自分から消えてなくなる。

 やりたいこと、欲しいものを手に入れようと思ったとき、それを天秤にかける。左にやりたいこと、欲しいもの、右に時間、お金。しかしその天秤はバランスが取れていない。年を重ねるにつれ少しづつ右側に傾いていき、簡単に左側に傾くことが少なくなった。
 ちょっと賢くなったかわりにお金は貯められる。欲しいものを我慢し、未来に繰り越すことができる。今度は時間とお金を天秤にかける。○○時間バイトすれば○○円手に入る。時間=お金という等式を成立させて日々を送る。
 今欲しいものは、すぐ手に入れなくても後で欲しくなった時に買えるかもしれない。しかし今やりたいことは、「今」という時間でしか買えないかもしれない。
 若い間は「今」という最高の価値を持っている。やりたいことは衝動買いすべきなんだ。天秤なんてぶち壊して。
★★★