ダンス・ダンス・ダンス 村上春樹

ダンス・ダンス・ダンス(下)

ダンス・ダンス・ダンス(下)

羊をめぐる冒険』から4年、激しく雪の降りしきる札幌の街から「僕」の新しい冒険が始まる。奇妙で複雑なダンス・ステップを踏みながら「僕」はその暗く危険な運命の迷路をすり抜けていく。渋谷の雑踏から、ホノルルのダウンタウンまで。そこではあらゆることが起こりうるのだ。羊男、美少女、娼婦、片腕の詩人、映画スター、そして幾つかの殺人。華麗にそしてハードに、運命はそのステップを踏みつづける。

「でも私はずっとあなたのことを好きだと思うわ。それは時間とは関係ないことだと思う」
「そう言ってくれるのは嬉しいし、僕もそう思いたい」と僕は言った。「でも公平に言って、君は時間の事をまだあまりよく知らない。いろんなことを頭から決めてしまわないほうがいい。時間というのは腐敗と同じなんだ、思いもよらないものが思いもよらない変わり方をする。誰にもわからない」

誰もやりたがらないけれど、誰かがやらないと、あとで誰かが困るようなことは、特別な対価や賞賛を期待せず、ひとりで黙ってやっておくこと。それが僕の言う「雪かき」。時間は「文化的雪かき」でさえもいつかは意味のあるものにしてくれる。そう信じてぼく達はダンスのステップを踏み続けなければならないわけで。
★★★