熊の場所 舞城王太郎

熊の場所

熊の場所

何が飛び出すか誰にもわからない最強の純文学!圧倒的文圧で疾走する表題作『熊の場所』 僕がまー君の猫殺しに気がついたのは、僕とまー君が二人とも十一の時、一緒に西暁小学校に上がり、同じ教室で勉強し始めて五年目の頃だった。第15回三島由紀夫賞候補作の表題作ほか、二編を収録した短篇集。
熊の場所

 恐怖とは一体なんだろう。恐怖とは、一体何に対して生じる感情なんだろう。
 勝ち負けの結果予想はともかく、まー君も戻らざるをえなかったのだろう。だって誰でも、自分に恐怖を与えている場所にちゃんと戻らないと、恐怖は一生ついて回るからだ。恐怖から逃れたければ、できるだけ早く、熊の場所に帰らなくてはならない。

『バット男』

 人間の社会には善も悪も正解も間違いもはっきりとはないが、ひとつだけ、力の差だけは明快に、疑いようもなく、歴然としてあるのだ〜〜
 人生はスポーツではない。負けてないことが勝つことにはならない。そしてこれは誰でも判っているだろうが、人生ってのは大きな引き分け試合だ。でもそれぞれの局面において、勝ち負けはちゃんとある。って言うか勝ち負けしかない。でも負けた時しか、勝ち負けの判断はうまくできないのだ。
 バット男はどこからどんな風にやってくるのか判らない。自分より弱いやつをバットで殴るために。
 僕はだから、どんなバット男にも負けないように強くならなくてはならない。誰にも殴られないように、自分を鍛えなくてはならない。
 負けたら下手すれば、自分がバット男になってしまうかも知れないのだから。どこかで表面がぼこぼこのバットを拾って手にして、自分より弱いやつを探して殴ろうとしないとも限らないのだから。

『ピコーン!』のラストは大爆笑。お笑い好きは読むべし。
★★★★