限りなく透明に近いブルー 村上龍
- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1976/07/09
- メディア: 単行本
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前半は読んでいて本当にむせぶような描写ばかりでなかなか読み進めなくて。だけどそんな情景と登場人物たちの行動とうらはらに、彼らの心象は無垢だと思った。
ちょっと外を見ていたいんだ。小さい頃雨見なかった?外で遊べなくてさ、窓からよく雨を見たよ、リリー、いいもんだよ。
「リュウ、あなた変な人よ、可哀相な人だわ、目を閉じても浮かんでくるいろんなことを見ようってしてるんじゃないの?うまく言えないけど本当に心からさ楽しんでたら、その最中に何かを捜したり考えたりしないはずよ、違う?
あなた何かを見よう見ようってしてるのよ、まるで記録しておいて後でその研究する学者みたいにさあ。小さな子供みたいに。実際子供なんだわ、子供の時は何でも見ようってするでしょ?赤ちゃんは知らない人の目をじっと見て泣き出したり笑ったりするけど、今他人の目なんかじっと見たりして御覧なさいよ、あっという間に気が狂うわ。やってみなよ、通り歩いてる人の目じっと見てごらんなさいよ、すぐ気が変になるわよ、リュウ、ねえ、赤ちゃんみたいに物をみちゃだめよ」
影のように映っている町はその稜線で微妙な起伏を作っている。その起伏は雨の飛行場でリリーを殺しそうになった時、雷と共に一瞬目に焼きついたあの白っぽい起伏と同じものだ。波立ち霞んで見える水平線のような、女の白い腕のような優しい起伏。
これまでずっと、いつだって、僕はこの白っぽい起伏に包まれていたのだ。
血を縁に残したガラスの破片は夜明けの空気に染まりながら透明に近い。
限りなく透明に近いブルーだ。僕は立ち上がり、自分のアパートに向かって歩きながら、このガラスみたいになりたいと思った。そして自分でこのなだらかな白い起伏を映してみたいと思った。僕自身に移った優しい起伏を他の人々にも見せたいと思った。
先日、村上龍の故郷・佐世保へ行った。佐世保は海軍基地と佐世保バーガーが有名な街だ。
目的のハンバーガー屋を捜し彷徨っていた僕たちの車は、いつの間にか米軍基地に突入していた。
そこは日本であり、限りなくアメリカに近い場所。
近づいてくる基地の人。
流れる冷や汗。
この世の終わりを謳う蝉の声。
………
事情を話すと基地の人は優しく道を教えてくれた。ハンバーガーは注文してからできるまでに1時間もかかる。その大きさはまさにアメリカの巨大さを象徴しているように思った。なんとか全てを食べ終えたものの、僕の胃は完全にアメリカ軍に占領されたような気分になっていた。
ピーーース!
★★★