毎月新聞 佐藤雅彦

毎月新聞

毎月新聞

毎日新聞』で4年にわたり連載した月1コラム、その名も「毎月新聞」。その月々に感じたことを、独特のまなざしと分析で記す佐藤雅彦的世の中考察。
 ハッと気付かされたようなおもしろさを感じたところを。
『決定されていた未来』。クラスの席替えのくじ引きをしたが、みんな自分の希望とは全然違う席になってしまった。先生が「じゃあ今やった席替えは無しと言うことにしよう」といってその日は解散になった。次の日先生が学校に来てみると不思議なことにみんな嫌がっていた新しい席に当然のごとく着いていた。しかもみんな生き生きしている。<人は決まりきった未来を好まない>と言うことなのだろうか。
 この先、もし科学技術により人生の結果をほとんど知ることができるようになったとして、我々は、果たしていきいきと生きていけるのだろうか。
 起こること全てを覚悟しているプッチ神父と対極的な考えだと思った。普通って言えば普通なんだけど。

『ストレスフリーという考え方』非常に美しい缶紅茶のパッケージをデザインしたときの話。あまりにキレイなデザインで、空き缶を机に飾る女性が現れた。本来消費財にとって、買う、おいしく飲む、空き缶を捨てる、また買う。というサイクルが健全なはずだ。なのに彼女は捨てることに抵抗感つまりストレスがあるという状況に陥ってしまったと言えないか。そうだとしたら、商品の循環はそこでストップしてしまうことになる。いろんな商品開発の際、利便性や効率を追求すると同時に、どこかに潜んでいるストレスの元を見つけて無くすと言う寒天を持つというのはとても大事だし、むしろストレスフリーといった考え方で従来の製品を見直すことも大事かもしれない。

『前の駅出ました』電車のホームの待ち時間のイライラ。案内板の「前の駅を出ました」というと表示を見ると瞬く間にイライラが消えていた。これは電車の本数を増やすとか、乗り心地をよくするとかに匹敵するサービスだったんだと感心した。さらに電車が動き出した瞬間あることを発見した。「僕のイライラが消えたということは、ちょうど今頃、次の駅にいる人たちのイライラも消えているということだ!」。この<視点の切り替え>は従来から映画や小説の手法としては時々使われている。この視点の切り替えをエンターテイメントとして取り入れた素晴らしい例がある。ある博覧会のパビリオン。ゴールまでは非常に長い行列。ゴール付近は2階になっており、階段の上まで来た人は、なぜかにこやかになる。なんと行列を少し距離を持って見下ろすと動物の一筆書きになっていたのだった。

『6月37日』きちんと壊れているもの、つまり壊れ方を制御しているものは、我々がすでに持っている枠組みを壊し、新しい枠組みを示唆する。例えば1ヶ月が41日あるカレンダー。

 面白いことを説明すると野暮になるって思われているが、面白いことを論理的に説明しても面白がれるってことにに気付かされた1冊。
★★★★