ヘンな事ばかり考える男ヘンな事は考えない女 東海林さだお

麻布十番温泉、キャバレー白いばら、浅草食い倒れ等東京ディープ空間を探訪。愛しいアイボ飼育日記、高橋春男氏との似顔絵対談も収録。
似顔絵について 

 似顔絵というのは、いかに似せるかじゃなくて、いかに離れるかなんですよ。その距離が長ければ長いほど面白い。

コロッケのモノマネが職人芸な理由。
『さあ、手づかみで食べよう』
 西洋の人たちは、ついこないだまで手づかみで食べ物を食べていたそうだ。フォークが使われだしたのは12世紀からで、イギリスに至っては、少なくとも17世紀までは手で食べていたと。

留守番が厳格だった頃の話

 不意に柱時計がボーンと鳴る。
 退屈と柱時計は、とてもいい関係にあった。
 雨の日とき、ぼくは水滴をじっと見ながら何かを考えていたのだろうか。
 晴れの日のとき、蟻の通行をじっと見ながらぼくは何かを考えていたのだろうか。
たぶん、何も考えていなかったような気がする。
 何もしない時間。何も聞こえない時間。何も考えない時間。ただぼんやりしているだけの時間。
 いま、人生の後半に差し掛かって少年時代を思い返すとき、いちばん懐かしく思い出されるのはこうした空白の時間である。
 あの退屈が懐かしい。あのぼんやりが懐かしい。あのボーン、ボーンでふとわれに返る自分が懐かしい。

味わい深いね。
★★★