パイナップリン 吉本ばなな

パイナツプリン

パイナツプリン

「キッチン」で鮮烈にデビューしてから、吉本ばななの心をとらえたもの。恋のこと、死、友情、作家について…。日常の諸々が、彼女を勇気づけ、揺さぶる。初のエッセイ集。
『幸福の瞬間』

 幸福とかそういうものは、本当に卵のようなものだと思う。大切だからといってきつくつかむと割れてしまうし、そっと扱いすぎても気がはってかえって負担になる。だから、古今東西何万人もの人々が語るように、いちばんよいのは、パック入り卵を自転車のかごに入れてがたがたゆらしながら無造作に帰路を急ぐおばさんのように、幸福と接することに決まっている。家に帰って、2、3個割れていても「あら、われてるわ、ま、いっか。また買えば。」と気軽に受け止めて、残りの卵を使っていればいいわけで、こういう対し方がいちばん大切である。不幸、というのはすべてほとんど、バランスの不在からやって来る。ここで言う不幸とは、外的なものではなく精神のそれです。だから私のように「幸福の瞬間」について考え込んでいるような脳みそは、あまり実際幸福とは言えない。ま、いっか。

★★★