ハバナ・モード 村上龍

ハバナ・モード (Men are expendable (Vol.8))

ハバナ・モード (Men are expendable (Vol.8))

絶望を希望に変える必要はない。絶望の傍にしか希望はないからだ。『13歳のハローワーク』から『半島を出よ』脱稿まで、孤独な小説家の2年間の軌跡とメッセージ。
 

決定権とセットになった責任という概念がないのは非合理的だ。

 答えより、設問のほうが重要。作家だって小説のアイデアが浮かぶのは、答えを発見したときではなく、問いを見つけたときだ。「80万人の中学生が集団不登校になったらどうなるだろうか」

 先日、宅配の味噌を買った。かなり高価だったので、こういうのはやはりどちらかといえばお金持ちが買うのかな、と聞くと、そんなことはないという答えが返ってきた。敷地千坪みたいなお屋敷でも買わないところは買わないし、6畳のアパートに住んでいる人でも買う人は買うのだそうだ。当たり前といえば当たり前だが、買う人は味噌好きで、毎日味噌汁を飲まないと生きているという実感が持てないという人らしい。味噌好きはいろいろな階層に渡っているので、年収などで購買層を特定できないということだった。
 「格差を伴った多様性」というと、年収で人を分けたり、地方と都市部で分けたりしがちだが、味噌が好きかどうかという違いもあるわけだ。

 繰り返し語られている格差の話。当たり前のことだが、人々の生活スタイルには多様性がある。しかし「上流」「下流」のように定義が曖昧な言葉で括られるとその細部に目をやることが困難になる。レッテルを貼るのは簡単だが、その下に何があったのか、剥がして見てみるのは意外と難しい。そんなことに気づかされた。
★★